NO MORE TRAGEDY

小山田亮はNYで語学留学中にニューヨーク市警のパトカーに撥ねられて、24歳の若さで命を落としました。遺族は亮の死に関する真実を明らかにするために、ニューヨーク市警とパトカーの運転手を相手に訴訟を起こしています。このブログでは亮の事故に関係する記事を投稿しています。ウェブサイトもご覧ください。http://oyamada.weebly.com/

NY市警のStop and Frisk政策をめぐる判決と現状

先日、亮君に衝突した事故車両についての記事を紹介しました。
車両の状態からは相当な速度で走行していたことがうかがえました。
赤色灯を付けず深夜の道を猛スピードで走行していたならば、それは常識的には考えられない行為です。

目撃者証言の中には「事故にあっていたのは自分だったかもしれない」というものもあり、誰もがそのような危険を感じていた可能性が考えられます。NYでは警察の違法行為が許容されているのでしょうか。

 


NYは15年程前まで、犯罪率の高い、危険な街として知られていましたが、90年代以降、徐々に治安は良くなりました。

その治安向上の為に取られた対策が警察の強化でした。世界中の人が憧れ、集まるNYにおいて、治安維持は重要です。しかし、その治安維持の名目の下で行われてきた政策の一部が今、問題視されています。それは、明らかな差別的行為が見られるまでに膨らんだStop and Frisk政策の問題です。

Stop and Friskは、日本で言えば職務質問のようなもので、警察が不審者と推測した者を呼び止め、身体検査を行うというNY市警の行っている政策です。

ブルームバーグ市長の任期12年間にそれは強く推し進められました。

その政策では、壁や電柱に頭を打ちつけられるなど、拷問に近いような暴力的行為も行われていたという現状が明らかになっていました。

また、これまでに440万人の人がStop and Friskを受け、そのうちの85%以上が黒人やヒスパニック系であり、その90%が何の罪も無い人であった、という統計が出ています。Stop and Frisk政策が人種差別的であるという不満が、近年高まり、各地でデモや抗議運動、被害者による訴訟が起きていました。

 

こちらはStop and Friskの様子を紹介した動画です。


The Hunted and the Hated: An Inside Look at the ...

 


先月12日、NY市とNY市警に対して起きていたStop and Frisk訴訟の判決が、アメリカ連邦裁判所で出されました。シーラ・シェインディン判事は序文の中で、路上で危険に直面する可能性のある職務に従事する警察への敬意を述べた後、NY市警のStop and Frisk政策は、憲法修正4条に違反するものである、と裁定を下しました。


234ページに渡るその判決文の中で、判事は、「NY市は憲法違反であるNY市警のStop and Friskを意図的に無視し、そのような差別的行いがエスカレートすることを容認し、間接的に支援した。普段生活を営む為の外出で、呼び止められるかもしれないという不安の中で人は生きるべきではない。また罪を犯す黒人やヒスパニックの人がいるという事を前提に、その人種の男性をStop and Friskの標的にする事は、平等の根本的原則の侵害にあたる」と述べました。

また、今回の裁判の中で、1人の警官が、「Stop and Frisk政策はマイノリティに恐怖を植えつける為のものだった」という証言を残しています。

 


このような動きの中、先月22日、NY市議会では、市警に対する二つの法案が可決され、議会を通過しました。その法案のうち、1つはNY市警に対し外部監督機関を設置するというもの、もう一方は差別的なプロファイリングを禁じるもので、人種、宗教、障害、性別、等から差別的に判断され取調べ等をされた人は訴えを起こすことが出来るというものです。


NY市長ブルームバーグ氏と警察本部長レイ・ケリー氏は、この法案に強く反対を続けており、これまで市長は、拒否権を使い、この法案通過を食い止めようと動き続けていました。しかし、今回の投票では、市長の拒否権を超え、2つの法案が通過しました。


Stop and Frisk政策を擁護するブルームバーグ市長は、Stop and Friskは銃の押収および、事件防止につながっており、大いに治安維持に貢献している、さらに、白人も多く呼び止められている、と反論しています。また警察本部長レイ・ケリー氏も、黒人等の犯罪件数が多く、呼び止める割合が増える事は仕方がないと反論しています。
ブルームバーグ市長は、この法案通過に反対し、新たに訴えを起こす意を明らかにしています。

統計によると2003年から2011年の8年間、犯罪件数は増加していないにも関わらず、Stop and Friskの件数は増加しています。2011年以降、犯罪件数および、Stop and Friskの件数は低下傾向にあります。

確かに、この政策がNY市民の安全に全く貢献していないとは言い切れません。しかし一方で、これまでにこの政策により不当に扱われた人や、怪我を負った人が起こす訴訟が後を耐えないという現実は、決して無視できる事ではありません。
そして、これからもこの違法なまでにエスカレートしたStop and Frisk政策の現状を放置していては、警察の職務が全市民の安全の為に行われているとは言えません。また、このような差別色の濃い政策が容認されて良いはずがありません。

今回の裁判では、この違法なStop and Frisk政策の改善のため、判事から対策として、独立した外部監督機関をNY市警に対し設ける事と、ボディカメラを警官に試験的に装着させる事が提案されました。

 
市民の改善要求の声を受け、Stop and Friskの違法性を改めようとした判事の判決。
それはこの政策を禁止するものではなく、今見られる問題点と市民から指摘される点の改善を求め、政策を合法に行うよう求めるものです。しかしNY市長と警察本部長は反論を続けています。なぜこんなにも熱心に、改善に対し反論を繰り返すのでしょうか。

 


現在、小山田亮君の遺族の弁護人は、事故の目撃者を探していますが、なかなか協力者は見つかりません。そこには、警察が大きな権力を持ち、多くの人がその権力を恐れているという背景があるのかもしれません。NYでは今、市民が公平かつ、安全に暮らす為に任務を遂行するはずの警察が、市民から安心を奪う存在になっている側面が見られます。同時に警察官の中にもこのような形態の業務に疑問を抱いている方もおり、NY市民が、この現状を改善しようと動いている実状も見られます。

このような現状が、一日も早く改善される事を願います。


*参考
http://gothamist.com/2013/08/22/council_overrides_mayors_vetoes_blo.php
http://www.nydailynews.com/news/politics/new-york-city-council-overrides-mayor-bloomberg-vetoes-passes-bills-rein-aggressive-policing-article-1.1434160
http://www.nydailynews.com/opinion/judge-judge-article-1.1430385
http://www.huffingtonpost.com/2013/08/12/stop-and-frisk-violated-rights-new-york-city-judge-rules_n_3743236.html