NO MORE TRAGEDY

小山田亮はNYで語学留学中にニューヨーク市警のパトカーに撥ねられて、24歳の若さで命を落としました。遺族は亮の死に関する真実を明らかにするために、ニューヨーク市警とパトカーの運転手を相手に訴訟を起こしています。このブログでは亮の事故に関係する記事を投稿しています。ウェブサイトもご覧ください。http://oyamada.weebly.com/

改善なく容認され続ける警察のあり方①

日本でも、アメリカで起きている警察が黒人を撃つ事件がたびたび報道されるようになりました。抗議しても抗議しても、同様の事件が起こり続け、人々の怒りはピークに達し、警察を撃つ人まで現れてしまうという現状です。

 

私も先日、会話の中で友人と「何で警官はこんなに簡単に人を撃つのか」という話になりました。


全ての警官がそういうわけではないでしょう。けれど、キレやすい警官や、すぐ撃つ判断をする警察がいるらしい事や、警官をいらつかせた事で被害者が死に至ったように見受けられる事件は確かにあります。

 

色々な記事を読むと、事件の責任や原因は追求されたり改善に活かされたりせず、その状況が継続されているとわかります。

 

この状況について、3回の記事に分けて書いていきたいと思います。

最初のこの記事ではいくつかの事例を紹介していきます。

 

まず、2014年に出されたこの記事のタイトルを見てください。

m.nydailynews.com

タイトルには、過去15年間で、ニューヨーク市内で任務中の警官の手により命を落とした人は179人、そのうちわずか3件のみが起訴され、有罪が(州裁判所で)認められたケースは1件のみ(懲役無し)”」とあります。

(※この数字はNY市内のみの数字で、アメリカ国内全体では今年だけで600人以上の人が亡くなっています。 The Counted: tracking people killed by police in the United States | US News | The Guardian



この記事の分析は1999年のアマドゥ・ディアロさん(レイプ加害者だと警察に取り間違えられ、財布を出そうとした際に警察に41発発砲され死亡)の事件から2014年アカイ・ガーリーさん(新人警官の誤射により死亡)の事件までの間に行われています。これによれば、被害者の86%が黒人又はヒスパニック系の人でした。

 

ーー記事よりーー

勤務中の警官の手により亡くなった人の4分の1(約27%)が武器を所持しておらず、さらにその中には冤罪であったり事件を傍観していただけの人も含まれていた。また、20%がなんらかの精神疾患を持つ人であった。

*この統計は、勤務外の警官による事件や警官の行動から間接的に死亡した事件は含まれておらず、勤務時間外の警官が起こした死亡事件数は43件、そのうち10件に有罪判決が出ているという。(下図参照)

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図からわかるように、NY市だけで毎年10人以上の人が警察により命を奪われています。それでは具体的な事例を見ていきたいと思います。

 

1994年ブロンクスで、アンソニー・バエズさんが死亡した事件

バエズさんは兄弟とフットボールで遊んでいた際、ボールが警察車両に当たったことから警官と口論となり、フランク・リボティ警官に後ろから首を絞められ(チョークホールド)、死亡しました。
ブロンクスの大陪審で警官を起訴する事が決定されましたが、その後判事が無罪としました。しかし、1998年に連邦法人権侵害で警官は有罪とされ、7年服役しました。
(※大陪審で起訴が決定された後、裁判でリボティ警官が陪審員による裁判で無く、判事による裁判を選択し、州裁判所の判事は罪を退けた。その後、抗議運動がおこり、連邦検察が連邦法における人権侵害で調査を開始、連邦裁判所では有罪となった。)

 ーこの事件は、連邦裁判所が警察に懲役を科した最後の事件となっていて、以降20年以上警察が人を殺めて刑務所に入るという事例は起きていません。

 

1999年ブロンクスでのアマドウ・ディアロさんの事件

警官にレイプ加害者であると誤認されたディアロさんは、手を上げるよう命じられた後に財布を出そうとしたため、撃たれたとされています。警官らは41発の銃弾を放っていました。ブロンクスの大陪審は警官を起訴することを決めましたが、裁判で警官は無罪となりました。

(※大陪審:市民から選ばれた陪審員が、起訴を行うかどうかを決定するもの。地区検察が事件を調査し起訴すると判断した後、大陪審で起訴が妥当かどうかが決められる。)

ーこの事件をきっかけに大規模な抗議運動が起こり、新たな警官のトレーニングが導入され、撃つかどうかの判断に被疑者の人種がどのように影響しているかの研究が数多くなされました。

 2003年マンハッタンでのオスマン・ゾンゴさんの事件

倉庫で働いていたゾンゴさんは、郵便配達員を装い倉庫を訪れた警官に撃たれて亡くなっています。ゾンゴさんは(警察が当時捜査していた)偽造品販売に全く関係していなかったのに、それを検証されることもなく、撃たれ亡くなりました。この事件後、州裁判所の判事が保護観察5年と500時間の社会奉仕を警官に命じましたが、服役は言い渡されませんでした。

ーこの事件から、被告人が警察の場合、検察が裁判で要求する刑が軽いものになっているということが窺えます。

 

2009年ブルックリンで、シェム・ウォーカーさんが撃たれた事件

祖母の家の前で私服警官と乱闘なったウォーカーさんは、相手が警官である事を知らず、警官に手を出したことにより、撃たれ死亡しました。(手を出したとするのは警察の主張。)
元ブルックリン検察のチャールズ・ハイネ氏は、この事件をどのように起訴するか熟慮しているという説明をウォーカーさんの家族にし続け、対応を4年以上も先延ばしにしました。その後、担当検事が交代しましたが、後任検事は「起訴しない」という判断を下しました。家族の弁護人によると、4年以上も月日が流れ、後任検事にはそのような選択肢しか残されていなかったそうです。

ーこの事件からは、いかに問題がある事件でも、検察が正しく対応せず、起訴にも及ばないことがあるという事がわかります。


2014年スタテンアイランドでのエリック・ガーナーさんの事件
エリック・ガーナーさんは路上で違法にタバコを売っていたところを警察に注意され、押し問答となり、タバコは売っていないと主張したところ、警察が絞め技(チョークホールド)でガーナーさんを抑えつけ、その結果呼吸ができなくなり死亡しました。4人の警察に抑えつけられたガーナーさんは「息ができない」と何度も繰り返していたのにも関わらず、警察が手を緩めず亡くなりました。

この事件では完全に状況を映す映像があったにも関わらず、大陪審で不起訴が決定され、警察の責任は問われませんでした。

また映像を録画した人が(軽犯罪の容疑で)逮捕されました。現場が封鎖された状況で、公平な調査が行われず、死亡した被害者に罪を着せるような事が起きるのであれば、映像を撮り公開する事でしか真実は証明されないし、問題は公にならないであろうというにも関わらず、その声をかき消すように警察は動いたのです。

 

ーこの警察が不起訴になったという失望から大きな抗議運動があり、その抗議運動は全米へと広がりました。Black Lieves Matterという言葉が頻繁に使われ出したきっかけとなった事件です。

また同時に、軽犯罪を犯した人であれば、いくら警察が不適切な対応を取っていたという証拠ビデオがあっても警察の罪は問われないという前例が出てしまったという意味では、今後の警察事件に対して大きな影響を与えてしまった事件とも言えるでしょう。

この事件後、市民の警察に対する不信感はさらに強まることになります。

 


この過去15年の事例をみると、法の手順が踏まれているように見えますが、179件のうち州裁判所で有罪とされたのはたった1件で、起訴されたのは3件のみであるという結果からは、公正に調査されて裁かれてきたのかどうか疑問が残ります。


以下の記事には、警察改造プロジェクトが出した報告について書かれています。警察改造プロジェクトは今年3月から6月まで警察により召喚や逮捕された人に対し行われる刑事裁判所での罪状認否を傍聴し、その結果を報告しています。

Arrested For Picking A Flower, And Other Broken Windows Policing Horror Stories: Gothamist

 

傍聴された審理の89%が黒人とヒスパニック系の人に対する審理であり、そこには万引きなどの罪も含まれてはいたものの、公園の時間外使用、無許可の路上販売など、従来は刑事裁判所に出頭する必要の無いものも含まれていました。中には、公園の花を摘んだ事で召喚された人もいました。

この結果からは黒人やヒスパニック系の人がいかに簡単に何かの容疑者にされ、起訴されているかということが分かります。

記事には以下の点も書かれていました。

ー裁判所に出頭してきた人の中には無実であっても罪を受け入れられるように仕向けられている圧力を感じている人もいた。そうしなければ、犯罪履歴として残るような判定が下る可能性があるからである。
ー去年だけで法廷は315000件を扱っており、(一日850件程)1件の罪状認否が1分35秒程のペースで行われ、最も短いものは13秒だった。

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 この記事では、警察による死亡事故の具体的な事例と警察の行動にいかに人種差別の要素が含まれているのかについて書きました。

次回の記事では何故このような警察による横暴が起きているのか、そして何故それが容認され続けているのかについて書きたいと思います。